美女と過ごした思い出
日々命がけで働いている男というものは
プライベートな時間に仕事の話なんか持ち出しません。
私もそういった類ですので
獣医医療の話題をお望みの方、今回もすみません。
というわけで久しぶりのクルマネタです。
さっそくですが近年、
若者たちのクルマ離れが進んでいる様子ですね。
これは私のように古いタイプの男にとっては
全く理解できない現象です。
だって男の持ち物と言えば鍛えたカラダとイヌとクルマ、
この三つだけで完結すると信じていますから。
そんなバカな、と思うかもしれませんが
先に申した通りオールドタイプの男ですからしょうがありません。
そしてそうでない方を一人前の男と認めない、
と言っているわけではありませんので念のため。
これは数あるオスの一タイプの戯言と思ってください。
さて、クルマに求めるものは人それぞれでしょう。
ここで誤解を恐れずに申し上げますと
実はカー・エンスーにとっては
愛車は恋人のごときものです。
憧れ、
努力して手に入れ、
頑張って維持し、
磨き愛(め)で、
一体になって走り、
蜜月を過ごします。
移動のための機械なんかに現(うつつ)を抜かすなど
時間とエネルギーと財産の浪費以外の何物でもない、
と考える経済観念の進んだ方も大勢いらっしゃると思いますが
効率や利回りばかりで解決できないのが戦う男の精神なんです。
もともとタフですから肉体がどんなに傷ついても死にませんが
心の栄養が無くなれば精神が死んでしまいます。
多くの無駄を承知の上で、
これは辛い仕事に耐える気力を充填するための
必須栄養素の一つであるとご理解いただきたい。
というわけで今まで本当にたくさんの美女たちと過ごしました。
そして今もそれは続いています。
芸術的なボディ、官能的なしぐさ、美しい声
(芸術的な車体、官能的な操縦性、美しい排気音)
クルマは女好きの男たちが
もうひとつの夢を追い求めてつくる機械です。
だからこういった実用性に直結しない
感覚的な部分が重要視されることも多く、
その出来上がりに大きく反映されることがあります。
特にイタリアは美女が多いですから
イタリア車もまた美しいものが多いですね、
そしてどちらも乗れば楽しい。
外観の美しさは内部に秘めた高性能の象徴でもあります。
「美味しそうに見える料理は期待を裏切らず美味しい」ということですね。
ただし美女と暮らすのはいいことばかりではありません。
最高性能を目指したデリケートな設計ゆえに
気まぐれ、わがまま、壊れやすく、手入れにも気を使います。
時には予測不可能な危険な挙動に冷や汗をかくこともあり、
我慢しなければならないことが星の数ほどあります。
魂がどんどん吸い取られ、寿命が縮んでいくのを感じます。
でもいいじゃないですか、たとえそうだとしても
生きている間は生きる希望に満ちていられるし、
時にはクルクルパーになりたい時があるんです。
これが私がスーパースポーツばかりを乗り継ぐ理由です。
写真は十年前に乗っていた360スパイダーというクルマで
明け方の箱根を走った時に撮影したものです。
朝もやの立ち込める峠道は誰もいなくて清々しかった。
私はスケドーニの革シートの芳香に包まれながら
素晴らしい加速、気持ちのいいコーナリング、
高らかに歌うエクゾーストノートを存分に楽しみました。
忙しい身の上ですから滅多に外出はできません。
出発から帰宅まで、たったの三時間だけのデートでした。
このクルマが私のガレージにいたのは二年くらいでしたが、
彼女との思い出はこれだけですね。
でも、それでいいんです。
たったひとつの楽しい記憶さえ残れば
別れた後でも一生
そのクルマを愛し続けていられるんです。
男ってそういうものです。