第二夜 “目撃”
最初に“それ”を目撃したのは
朝一番に出勤した若い看護婦である。
恋人と甘い一夜を過ごし
幸福感とけだるさの残る脳髄と肉体が
専門職の自覚を取り戻そうとしている
刹那の出来事だった。
病院ビルの一階に建造された人工川に
奇怪な黒い影が出現したその時
彼女が確信していた日常の常識は
無遠慮な非日常によって崩壊した。
乙女の夢うつつは“男”が君臨する
もう一つの世界に完全に飲み込まれたのだ。
悪夢なら早く醒めたいと思っても無駄である。
目を凝らして見ると“それ”は
過去の記憶の中にあるどの生き物の姿にも
似ていなかった。
“それ”は“明らかに頭部ではない何か”を
水面から突き出したまま泳ぎ回り次の瞬間消えた。
朝日を反射する人工川の波紋が視界をさえぎり
黒い生命体の正体をそれ以上
探求することを拒んだ。
謎は今、水の底に潜んでいる。
……続く……