第三夜 “浮上”
地球規模の異常気象がもたらす
亜熱帯の夏日が続いた。
男のシークレットな任務によって
深夜の病院の人工池に投入された謎の生命体の
存在は今や皆の大脳の記憶領域から追いやられ
すでに忘却の丘の彼方へ消えようとしていた。
誰もが平和で怠惰な日常を当然のように貪り、
暗い地球の未来を知覚することを拒みながら、
足早に現在が過ぎ去るのを望む生活に戻った。
しかし現実は確実にそこに存在し続けている。
これは真夏の世の夢ではなかった。
誰もいない病院のエントランスで
“それ”は静かに浮上した。
……続く……